日本では、刺身の王様と言われるほど絶大な人気を誇るクロマグロ。
トレーディングカードゲーム「海の仲間たち」(ウミカ)にも登場しています。
ウミカのわざは「ばくそう」と「かいゆう」。
どちらも泳ぎに関わるわざですね。
実は、クロマグロは泳ぎが得意。
海洋を横断する年間数千kmの回遊を行う、持久力の持ち主であり、それだけでなく、時速100km以上で泳ぐ魚類きってのスプリンターでもあるのです。
クロマグロはなぜこんなにも泳げるのでしょうか?
本記事では、魚類が誇るアスリート。クロマグロの身体能力について解説します。
魚類が誇るアスリート!クロマグロってどんな生き物

クロマグロとは
クロマグロは、サバ亜目サバ科サバ亜科マグロ族マグロ属ツナ亜属の魚です。
英名はブルーフィンツナ(bluefin tuna)と呼ばれています。
英名に「青」、日本名に「黒」が入っていますね。
これは、クロマグロは生きている時は背中やヒレが青く、死ぬと黒くなるためです。
日本名は死んだ状態、英名は生きた状態が名前の由来だなんて、ちょっと面白いですよね。
クロマグロとタイセイヨウクロマグロ
クロマグロと呼ばれる魚には、クロマグロ(T. orientalis)とタイセイヨウクロマグロ(T. thynnus)がいます。
かつては亜種とされていたが、現在では別種とされています。
(本記事では、種名を記載しない場合は2種を含めてクロマグロとします。)
クロマグロ(T. orientalis)
クロマグロ(T. orientalis)は、太平洋に生息している種です。
- 体長 2.5m以上に達する
- 体重 300kg以上に達する(最大650kg)
- 寿命 10年以上
タイセイヨウクロマグロ(T. thynnus)
タイセイヨウクロマグロ(T. thynnus)は、大西洋に生息している種です。
クロマグロ(T. orientalis)よりも大型個体が知られています
- 体長 3m以上に達する(最大4.6m)
- 体重 300kg以上に達する(最大684kg)
- 寿命 20年以上
どちらもかなり巨大ですよね。
突然群れに遭遇したら、かなり怖いのではないでしょうか?
そんな大迫力のクロマグロですが、漁獲量が減少しています。
クロマグロ(T. orientalis)の世界での漁獲量は、ピーク時には年間3.5万トンを超えていたのですが、近年は1.5万トン前後を推移しているそうです。
大洋を横断する〜クロマグロの回遊
クロマグロは世界中の様々な海で見ることができます。
これは「回遊(かいゆう)」を行っているからです。
回遊とは、餌や産卵、適した水温を求めて季節の移り変わりに応じて大洋を旅すること。
クロマグロだけでなく、サバやサンマ、イワシなどの魚類や、クジラやイルカなどの哺乳類など、様々な生物で見られる現象です。
クロマグロの回遊
クロマグロ(T. orientalis)とタイセイヨウクロマグロ(T. thynnus)は生息場所が異なるため、回遊の範囲も異なっています(図1)。

図1 クロマグロの回遊範囲(参考:阿部宏喜(2009))
クロマグロ(T. orientalis)は、東アジアから北米まで、太平洋を広く回遊しています。
産卵場所は南西諸島から台湾の東方海域です。九州周辺でも僅かに行われます。
一方で、タイセイヨウクロマグロ(T. thynnus)は、北米からヨーロッパまで、大西洋を広く回遊しています。
産卵場所はメキシコ湾、地中海のシチリア諸島です。
それぞれ太平洋と大西洋を広範囲に泳ぎ回っているんですね。
魚類きってのアスリート〜クロマグロ泳力
マグロといえば、泳ぐイメージがありますよね。
実際にクロマグロは長距離、短距離ともに泳ぎが得意です。
年間数千キロ泳ぐ
クロマグロが回遊により海洋を広範囲に泳ぎ回っていることを説明しました。
なんと年間数千キロも泳ぐのだそうです。
また、マグロというと、常に泳ぎ続けているというイメージがありますよね。
実はその通りで、クロマグロは泳ぎ続けなければ窒息してしますのです。
クロマグロは、口を開けて泳ぎ、海水をエラへ直接取り込むことで酸素を取り込みます(ラム換水法と呼ばれています)。
他の魚では、鰓ぶたを動かすことで止まっていても口の中の水をエラに流すことができますが、クロマグロにはそれができないのです。
このようにクロマグロの生活は泳ぐことと密接に結びついています。
まさに、生粋の持久アスリートなのです。
時速100キロ以上出せる
クロマグロは長距離だけでなく、短距離も得意です。
全力で泳げば時速100キロ以上出せると考えられています。
ただし、魚が全力で泳いだ時のスピードを計測するのは簡単ではありません。
なぜなら、人間のように、50mのタイムを競ってくれるわけではないからです。
理論的には、3mのクロマグロでは時速160キロ出せると考えられています。
しかし、実際の計測例では時速80kmくらいのものがある程度とのこと。
ただ、この記録が全力とは限らないので、時速100キロくらいは出せるのだろうと考えられています。
クロマグロはなぜ泳力が高いのだろう
効率的な泳ぎを実現する体
クロマグロの体には、効率的な泳ぎを実現するための特徴が備わっています。
水の抵抗が少ない体
ヒレの折りたたみ
クロマグロは、高速で泳ぐ時、次のようにしてヒレを折りたたんだり、体に貼り付けたりすることで、水の抵抗を減らします(図2)。
- 背びれ・腹びれ:溝の中に折り畳まれる
- 尻びれ・胸びれ:体に貼り付けられる

図2 高速で泳ぐ時のクロマグロの体(参考:阿部宏喜(2009))
これによって水の抵抗が少ない紡錘型になり、まるで弾丸のように進むことができるようになります。
小離鰭(しょうりき)
また、第二背びれと尻びれの後ろに小さなとっき(小離鰭(しょうりき)と呼ばれています)が6〜10対あるのですが、これが高速で泳ぐ時に体の周りの渦を消す効果があります。
三日月上の尾ビレ
尾ビレの形にも意味があります。
クロマグロの尾びれは、三日月のような形をしています。
これは、サメやイルカ、クジラにも見られます。
この尾びれを高振動させることが推進力を生み出すのです。
マグロ型遊泳方式
泳ぎ方にも秘密が隠されています。
クロマグロは、尾びれを高速で振動させて泳ぐのですが、この泳ぎ方は効率が良いと考えられています。
驚異の持久力を支える生理学的な仕組み
クロマグロは、からだの構造だけでなく、生理学的な仕組みも備わっています。
持久力の高い筋肉
筋肉の種類
人間には、短距離が得意な人や、マラソンが得意な人がいますよね。
その理由はいろいろありますが、一つは筋肉の質の違いです。
筋肉には、短距離型の筋肉(速筋)とマラソン型(遅筋)があるのです。
- 速筋(そっきん)
速く動かしたり、大きい力を発揮したりすることが得意だが、疲れやすい筋肉 - 遅筋(ちきん)
速さや力強さはないが、疲れにくい筋肉
魚類の筋肉
魚類の筋肉は、普通筋(ふつうきん)と血合筋(ちあいきん)に分類されます。
名前は人間とは異なりますが、普通筋は速筋、血合筋は遅筋の性質を持ちます。
つまり、血合筋は長時間泳ぐ時、普通筋は短時間速く泳ぐ時に使われることになります。
クロマグロの筋肉
クロマグロの筋肉には、次の特徴があり、長時間泳ぎ続けることに優れています(図3)。
- 持久力の高い遅筋である血合筋が大きい
- 筋肉へと酸素を運ぶ毛細血管が他の魚より発達
- 血合筋・普通筋ともに、酸素を貯蔵するための色素タンパク質ミオグロビンが多い
マグロの刺身は赤いですよね。これはクロマグロの普通筋にミオグロビンが多いためなのです。

図3 クロマグロの筋肉(参考:阿部宏喜(2009))
酸素供給能力
筋肉を長時間動かすためには、酸素の供給が重要です。
クロマグロは、酸素を取り込み、そして筋肉・組織へと供給する能力が優れています。
- エラの表面積が大きく、より多くの酸素を体に取り込むことができる。
- 心臓が大きく、一回の心拍で送り出せる血液の量が多いため、より多くの酸素を全身に送ることができる。
体温がある魚? クロマグロの内温性(ないおんせい)
回遊においては、海水温の変化がある中でも、安定して筋力を発揮し続けることが重要です。
哺乳類は体温を一定に保つ仕組みがあるため、暑くても寒くても運動能力を維持できます。
ところが、一般的な魚類は体温が水温の影響を受けるため、寒いと筋肉のパフォーマンスが落ちてしまうのです。
クロマグロには体温がある?
実は、クロマグロは血合筋を中心とした体の中心部の体温を、環境水温より高く保っているらしいのです。
水温19.3度の条件でも、血合筋温度31.4度、普通筋も25度以上を保つという報告があります。
このように、水温より高い体温を維持する魚類はとてもめずらしく、マグロ族の14種とネズミザメ科5種のみと言われています。
体温を維持する仕組み
それでは、クロマグロはなぜ体温を維持できるのでしょう。
胴周りの形状
クロマグロは、胴周りは丸に近い形状なので熱が逃げにくいのです。
筋肉に入る血液を温める仕組み(対抗流交換システム)
運動すると体が温まりますよね。
これは、筋肉が熱を発生しているからです。
クロマグロは、この熱を逃がしにくくする仕組みを備えています(図4)。
冷たい海水の中で長時間運動する際、血合筋の運動により温められた血液は、その後体を循環し、エラを通過して酸素を補給した上で再び血合筋へと戻ってきます。
この際、血合筋で暖められた血液は冷たい海水の影響により徐々に逃げていきます。
ところが、クロマグロでは、血合筋に入る冷たい動脈の枝と、血合筋から出る暖かい静脈の枝が、網のような構造を形成(レーテ構造と呼ばれています)しています。
これにより、暖められた血液が血合筋に入ることになり、筋肉が冷えることを防ぐことができるのです。

図4 クロマグロの筋肉を温める仕組み(参考:阿部宏喜(2009))
このような仕組みは、イルカやクジラ、アザラシなどのヒレ足や水鳥の足などでも知られています。
まるで精密機械みたいですよね。
生物の体は本当に良くできています。
まとめ
クロマグロの泳力とそれを支える身体能力について説明してきました。
本記事のまとめです。
・クロマグロは長距離、短距離ともに泳ぎが得意な魚類きってのアスリートである。
・クロマグロは、体の形状や構造、泳法などが泳ぎに適している。
・クロマグロは、筋肉や酸素の取り込み、そして体温を維持する機能など、泳ぎを支える生理学的な仕組みを備えている。
・クロマグロは、熱を逃がしにくい機能を備えており、冷たい水温の中でも筋肉のパフォーマンスを発揮できる。
ウミカ「クロマグロ」の技「ばくそう」と「かいゆう」は、海の中で力強く生き抜いている生き物に思いを馳せるきっかけになる技ですね。
背景の知識がわかると、カードゲームがもっと楽しくなるかもしれませんね!
参考文献
- 阿部宏喜:「カツオ・マグロのひみつ 驚異の遊泳能力を探る」恒星社厚生閣(2009)
- 「太平洋クロマグロの現状と資源回復について」WWF(2016)
- 「海の弾丸、マグロが高速で泳げる秘密とは」 ナショナルジオグラフィック
