「弱き者たちが力を合わせて、圧倒的に強い巨大な敵を倒す」——そんな胸が熱くなるストーリーは、いつの時代も私たちに勇気を与えてくれますよね。
実は、自然界でもそんな劇的な逆転劇がくり広げられています。その代表例が、ニホンミツバチが見せる「熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)」という行動です。
まるで必殺技のようなカッコいい名前ですが、一体どんな行動なのでしょうか?
そしてなぜ、体格で圧倒的に勝る巨大なスズメバチを返り討ちにできるのでしょうか?
小さなミツバチたちの驚くべき生存戦略に迫ります!
「ニホンミツバチ」ってどんなハチ?

私たちが普段「ミツバチ」と聞いて思い浮かべるのは、養蜂でよく使われているセイヨウミツバチ(Apis mellifera)です。
一方、今回主役となるニホンミツバチ(Apis cerana japonica)は、トウヨウミツバチ(Apis cerana)の亜種であり、青森県(下北郡・東通村)から奄美大島にかけて自然に暮らしている日本の「在来種」です。
豆のようにコロコロとした可愛らしい姿をしています。
ニホンミツバチとセイヨウミツバチの違い
ニホンミツバチ(トウヨウミツバチ)とセイヨウミツバチは何が異なるのでしょうか?
見た目はよく似ている2種ですが、じっくり観察するといくつか違いがあります(図、表)。

図 ニホンミツバチとセイヨウミツバチの違い
表 ニホンミツバチとセイヨウミツバチの比較
| 項目 | ニホンミツバチ | セイヨウミツバチ |
|---|---|---|
| 群れの規模 | 個体数が少ない | 個体数が多い |
| 体の大きさ | やや小柄 | ニホンミツバチよりやや大型 |
| 体色 | 全体的に黒っぽい | 黄色みが強い(※品種による) |
| 養蜂での流通 | 少ない | 主流 |
ニホンミツバチはセイヨウミツバチと比べると、群れの個体数が少なく、体も小柄です。
また、ニホンミツバチの体はセイヨウミツバチより黒っぽいと言われています(ただし、セイヨウミツバチでも品種によっては黒系のものもいるそうです)。
ニホンミツバチのはちみつは流通量が少ないものの、非常に濃厚で味わい深いと言われています。
ぜひ味わってみたいですね!
コラム:ミツバチの起源
世界中で活躍するミツバチですが、もともとの生まれ故郷はアジアの熱帯・亜熱帯地域と言われています。
現地にはオオミツバチやコミツバチなど、計9種ものミツバチが生息しています。
そのうち「トウヨウミツバチ」と「セイヨウミツバチ」の2種だけが、それぞれ東と西の温帯地域へと進出しました。木のうろなどの閉鎖空間に複数の巣板を作り、保温性を高める工夫を獲得したことで、厳しい温帯の冬を乗り越えられるようになったと考えられています。
絶望的な体格差! 最強の天敵「スズメバチ」
秋になると、ミツバチの巣にキイロスズメバチやオオスズメバチなどの「スズメバチ」という恐ろしい天敵がやってきます。
スズメバチはミツバチよりも体が遥かに大きく、ミツバチ最大の武器である「毒針」すら通さない硬い鎧(よろい)のような体を持っています。
体が大きいだけでなく、ミツバチ最大の武器である毒針が通じないとなると、流石に敵いませんよね。

図 ニホンミツバチ、キイロスズメバチ、オオスズメバチのサイズ比較
キイロスズメバチとオオスズメバチの狩りの方法
実は、キイロスズメバチとオオスズメバチでは、ミツバチに対する狩りの方法が異なります。
キイロスズメバチの狩り
キイロスズメバチは、単独で狩りをするのが特徴です。
巣門の前でホバリングし、ミツバチを1匹ずつ捕まえて連れ去ります。
ミツバチからすると、ーズン全体で見ると無視できない被害にはなりますが、これだけで巣がすぐに全滅することはありません。
オオスズメバチの狩り
一方で、オオスズメバチの場合、1匹1匹の力が特に強いだけでなく、集団で攻撃を仕掛けてくるのが特徴です。
オオスズメバチの集団攻撃を受けると、ミツバチの巣はあっという間に壊滅に追い込まれます。まさに「最強の天敵」なのです。
ニホンミツバチは、天敵であるスズメバチに襲われたら、どのように防衛しているのでしょうか?
逆転の必殺技「熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)」とは?

ニホンミツバチは、オオスズメバチに目をつけられたら、巣の崩壊から免れる術はないのでしょうか?
いいえ、ニホンミツバチには秘策があります。それが熱殺蜂球です!
必殺技みたいで、カッコ良い名前ですよね。
熱殺蜂球とは
数百匹のミツバチがスズメバチを球状に取り囲み(=蜂球)、体から発する熱で内部を高温にして、スズメバチを蒸し殺してしまう(=熱殺)行動。
ミツバチのような昆虫がこんな緻密で複雑な行動をするなんて信じがたいですが、秋になると巣の周辺で比較的よく目にする行動です。
相手によって変わる! 熱殺蜂球の仕掛け方
ミツバチは、襲ってくるスズメバチの種類によって熱殺蜂球の作り方を変えています。
キイロスズメバチに対する蜂球形成
ホバリングしてミツバチを捕まえようとする瞬間に、ミツバチ側も反撃を仕掛けます。キイロスズメバチがうっかり捕まってしまうと、そのまま大群に巻き込まれて蜂球になります。
キイロスズメバチにとっても、ミツバチ狩りは命懸けなのです。
オオスズメバチに対する蜂球形成
一方で、オオスズメバチへの熱殺蜂球はキイロスズメバチへの蜂球とは様相が異なります。
オオスズメバチの襲撃時には、まずオオスズメバチがミツバチの巣に対して、仲間を引き付けるためのマーキングを行います。
ミツバチはマーキングに気がつくと、採餌活動をやめて巣の中に閉じこもります。
巣の中で飛翔筋を温めて熱殺蜂球の体勢を整えます。
オオスズメバチがミツバチの巣に入ると、約500匹のミツバチがスズメバチを取り囲み、蜂球を形成します。
オオスズメバチは集団攻撃をするので、この攻防は長期間続く、持久戦になることもあります。
コラム:セイヨウミツバチも熱殺蜂球を作る?
ニホンミツバチ特有の技と思われがちな熱殺蜂球ですが、実は条件を整えれば、セイヨウミツバチでも観察されることがあります。
ただし、内部温度が低い、ミツバチがスズメバチを刺そうとする行動が多く観察されるなど、ニホンミツバチと比べると熱殺蜂球が上手ではありません。
限界ギリギリ! 緻密すぎる「温度設計」
ここで疑問が浮かびます。
「なぜ蜂球の中の温度がそれほど高くなるのでしょうか?」
「ミツバチ自身は温度で死なないのでしょうか?」
驚くべきことに、熱殺蜂球には緻密にに計算された温度になっているのです。
熱殺蜂球の温度
温度計によって測定した研究によると、熱殺蜂球の中心温度は46〜47℃に達します。
この高温は、ニホンミツバチ1匹1匹が翅を動かす筋肉(飛翔筋)を激しく震わせて生み出しています。
筋肉の収縮だけでこれだけの熱を発生させるなんて驚きですよね。
巧みな温度設計
なぜスズメバチだけが死み、ミツバチは生き残れるのでしょうか? その秘密は「耐えられる温度の違い」にあります(図、表)。

図 熱殺蜂球の温度設計(文献①、②)
表 ニホンミツバチとスズメバチの致死温度(文献①、②)
| 種類 | 致死温度 |
| キイロスズメバチ | 45~47℃ |
| オオスズメバチ | 44〜46℃ |
| ニホンミツバチ | 48~50℃ |
この46〜47℃という温度は、スズメバチの致死温度より高くニホンミツバチの致死温度より低いという、絶妙な温度なのです。
つまり、「敵は確実に倒せるが、自分たちはギリギリ耐えられる」という温度なのです!
スズメバチにとっては致死的だがニホンミツバチはギリギリ耐えられる温度が維持されているなんて、本当によくできていますよね。
さらに、ミツバチでぎゅうぎゅう詰めになった蜂球内部は二酸化炭素濃度が上昇します。二酸化炭素濃度が高くなるとスズメバチの致死温度が下がるため、より効率的にダメージを与えられることも報告されています。
熱殺蜂球はミツバチにとっても捨て身?
「スズメバチだけを上手く蒸し殺してめでたしめでたし」……と思いきや、この物語には切ない裏側があります。
実は、致死温度以下とはいえ46℃もの高温に晒されたニホンミツバチは、その後の余命が短くなってしまうことが判明しています。
熱殺蜂球は、まさに己の命を削って巣と仲間を守る「諸刃の剣(もろはのつるぎ)」なのです。


まとめ
小さな体に秘められた壮絶なドラマと、極限まで計算された生物の知恵。身近な自然の中に、こんなに熱い戦いが広がっているなんて驚きですね。
・ニホンミツバチとは:トウヨウミツバチの亜種で日本の在来種。
・ニホンミツバチの天敵は「オオスズメバチ」 :ミツバチより体が大きく、毒針も通らない硬い鎧を持つオオスズメバチは、集団で巣を崩壊させる最強の天敵です。
・必殺技「熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)」: 約500匹のミツバチがスズメバチをボール状に取り囲み、飛翔筋を震わせて発生させた熱でスズメバチを蒸し殺します。
限界ギリギリの「絶妙な温度設計」: 蜂球の内部は46〜47℃に達します。スズメバチの限界(致死温度44〜47℃)を超えつつ、ミツバチの限界(48〜50℃)の手前で止める見事な作戦です。
参考文献
- Ono, M. et al: Heat production by balling in the Japanese honeybee, Apis cerana japonica as a defensive behavior against the hornet, Vespa simillima xanthoptera (Hymenoptera: Vespidae). Experientia, 1031–1034 (1987)
- Ono et al: Unusual thermal defence by a honeybee against mass attack by hornets. Nature, 377, 334–336 (1995)
- 佐々木 正己:「ミツバチにおける飛行機能と飛翔筋の多機能化」.ミツバチ科学,23,58-64(2002)
- Sugahara, M., Sakamoto, F.:Heat and carbon dioxide generated by honeybees jointly act to kill hornets. Naturwissenschaften, 96, 1133-1136 (2009)
- Sugahara, M. et al: Differences in Heat Sensitivity between Japanese Honeybees and Hornets Under High Carbon Dioxide and Humidity Conditions Inside Bee Balls. Zoological Science, 29, 30-36 (2012)
- Hosono, S. et al: European honeybee defense against Japanese yellow hornet using heat generation by bee-balling behavior. Entomological Science, 20, 163-167 (2017)
- Yamaguchi, Y. et al: Double-edged heat: honeybee participation in a hot defensive bee ball reduces life expectancy with an increased likelihood of engaging in future defense. Behavioral Ecology and Sociobiology, 72, 123 (2018)
- 佐々木正巳:ニホンミツバチ 北限のApis cerana,海游舎(1999)
- 吉田忠晴:ニホンミツバチの飼育法と生態,玉川大学出版部(2000)
- 「小学館の図鑑Neo 昆虫」,小学館
